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東京高等裁判所 昭和46年(行ケ)103号 判決

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨および本件審決理由の要点がいずれも原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二 原告主張の取消事由の有無について検討する。

当事者間に争いのない本願考案の要旨および成立に争いのない甲第二号証によれば、本願考案は原告主張の(A)(B)(C)の構成を備えるものである事実を認めることができる。そこでまず、これらの構成が原告主張の(1)(2)の特段の効果をもたらすものであるかどうかについて検討する。

本願考案の効果として原告の主張する(1)(2)の効果があることは、前記甲第二号証によりこれをうかがうことができる。しかし、この効果が原告の主張する前記(A)(B)(C)の構成によつて生じるものと認めることはできない。その理由は次のとおりである。

(一) 原告主張の(1)の効果についてみると、二箇のカムならびにカムにそれぞれ接触するヘツド支持部材およびトラツクチヤンネル表示杆などにより機械の構造を簡単なものとし、小嵩なものにすることは、二箇のカムの一方を端面カムとし他方を周面カムとし、両者を共軸一体とすることにより得られるものであることは経験則上明らかである。このことは、前記甲第二号証本願考案の明細書四頁四行より一三行までの記載をみれば、本願考案が複チヤンネルテープレコーダを小嵩なものにすることができる理由として、専ら周面カムと端面カムとを共軸一体に形成したことによる旨をこの明細書において強調していると認められることよりしても明らかである。したがつて、この効果は、端面カムと周面カムとを共軸一体としたことにより通常生じる効果であつて、この構成により生じる特別な効果ないし他の構成との総合に基づく効果といえるものではない。

(二) つぎに、原告主張の(2)の効果についてみると、このような一対一対応表示の効果がチヤンネル表示杆駆動用の周面カムとヘツド駆動用の端面カムを共軸一体に構成したことによる効果であることは、被告も認めて争わないところである。しかしながら、それ以上に原告の主張するようにこの両カムが階段状に変化していることに基づくものであるとまでは認めることはできない。なんとなれば、両カムを階段状に変化させなくても、両カムは共軸一体に形成されているのであるから、ヘツド駆動用の端面カムの停止位置を、これに協働する台板に支持されるヘツドのチツプが正確にトラツクチヤンネルの位置に至るように構成すれば、この端面カムに対応するチヤンネル表示杆駆動用の周面カムの停止位置も、端面カムの停止位置と対応して、その対応関係を保つたままで両カムが回動することは当然であり、かくして、一対一対応表示が確実に保たれるものと認められる。このことは、前記甲第二号証本願考案の明細書中の前掲記載および同明細書三頁一四行より四頁三行までの記載よりみても明らかである。

もつとも、階段状カムはそうでないカムにくらべてカムとカム従動子のずれがある程度少なくなることは否定しがたいところではあろうが、一般に、ヘツド駆動用の端面カムについてみれば、テープレコーダにおけるヘツドの移行を階段状端面カムにより行なう技術が第二引用例において開示されている事実は、原告もこれを認めるところである。それ故、本願考案について、端面カムを階段状にしたことによる効果を理由に、進歩性ありとする原告の主張は採用しがたい。

また、周面カムについてみても、それが階段状のものでなくても、表示すべきチヤンネルに対応させてカムの段階を設けておけば、圧接されたチヤンネル表示杆とカムとのずれが、表示杆がどのチヤンネルを指示するものか判別しがたい状態すなわち、一対一対応表示を妨げる状態を生じるとは到底考えられない。成立に争いない甲第六号証によれば、第三引用例においても、ロータリースイツチと同軸に周面カム(階段状カムではない。)を取付け、スイツチの切換に応じて周面カムに接した着色板を回動させ、この着色板と透視窓により扇風機のスイツチ表示を確実に行なうことが記載されているのであるから、この記載に照らしてみても、一対一対応表示を確実にするためには、周面カムが必ずしも階段状のものであることを要するものではないというべきである。

以上のとおりであるから、本願考案においては、原告の主張する構成によりその主張する特段の作用効果を生じるものと認めることはできない。したがつて、本件審決が原告の主張する構成を看過し、その結果この構成に由来する格段の作用効果を看過したものであるとすることはできず、本件審決には原告主張のような違法はない。

三 よつて、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は失当であるから棄却する。

〔編註〕 本願考案の要旨および審決理由の要点は左のとおりである。

本願考案の要旨

複数の録音トラツク・チヤンネルの一つの位置に磁気ヘツドを移行させるようにした複トラツク・チヤンネル式テープレコーダにおいて、端面の円周方向に沿つて軸方向の作動面の高さを階段状に変化させた端面カムと周面に半径方向の作動面の高さを階段状に変化させた周面カムとを実質的に共軸一体に形成した回転体の上記端面カムにヘツド支持部材を、又回転体の上記周面カムにトラツク・チヤンネル表示杆をそれぞれ従動機素として圧接させて成るチヤンネル表示装置

本件審決理由の要点

本願考案の要旨は、前項のとおりである。ところで、英国特許第八七二、一〇三号明細書(以下、「第一引用例」という。)には、磁気ドラムに並設した多数のトラツクをヘツドを移行させることにより選択して再生すると共に該ヘツドを駆動する歯車の軸に指針を固定し、それにより選択したトラツクの表示を行なうものが記載されている。

そこで、本願考案と第一引用例とを比較すると、両者は、磁気記録体に多数のトラツクを並設し、トラツクに応じたヘツド位置を切換えると共に、ヘツドのトラツク位置の表示をする指針をヘツド位置切換装置に関連して回動させるという基本的技術思想において一致している。ただ、(1)本願考案が記録体として磁気テープを用いるのに対し、第一引用例は、磁気ドラムを用いること、(2)本願考案がヘツドの移行を端面カムにより行なうのに対し、第一引用例はラツクとピニオンにより行なうこと、(3)本願考案が指針を駆動するために周面カムを設けるのに対し、第一引用例は指針を操作軸に直結すること、(4)本願考案は端面カムと周面カムとを実質的に共軸一体に形成するのに対し、第一引用例は、そのような構成を備えていないことの各点で相違するものと認められる。

(1)の相違点について

磁気テープに複数のトラツクを設け、ヘツド位置を上下に移動させてトラツクの切換えを行なうものは周知である(必要ならば、昭和三〇年実用新案出願公告第七六二九号公報参照、以下この公報を「第一参照例」という。)から、その点により本願考案を登録すべきものと認めることはできない。

(2)の相違点について

ヘツドの移行を端面カムにより行なうものは、昭和三八年実用新案出願公告第二二〇二五号公報(以下、「第二引用例」という。)に示されている。それを、ラツクとピニオンによるヘツド移行装置に代えて用いることは、当業者が必要に応じてきわめて容易になしうることである。

(3)の相違点について

周面カムを用いて指針を水平に駆動するものは、昭和四一年実用新案出願公告第五〇〇六号公報(以下、「第三引用例」という。)に示されており、それが扇風機のスイツチ表示装置に用いられている点で本願考案と相違するとしても、上記技術を転用するのに格別の能力を要するものとは認められないから、この点も当業者が必要に応じてきわめて容易になしうると認められる。

(4)の相違点について

一本の軸に取着すべき複数のカムを共軸一体に形成することは周知であり(たとえば、昭和三五年実用新案出願公告第一〇八四二号公報参照。以下、この公報を「第二参照例」という。)、そのような、周知技術をテープレコーダに転用したことによる格別の作用効果を認めることはできない。

なお、請求人(原告)は、本願考案の各構成要件が個々に公知であつたとしても、それらを総合した本願考案は容易に考えうるものではない旨主張するが、前記説示のように、それらを総合するのに技術的常識をこえる特別の能力を要するものとは認められず、かつ、それらを総合したことによる格別の効果も認められないので、請求人(原告)の前記主張は採用しがたい。

したがつて、本願考案は、前記周知技術ならびに各引用例および各参照例記載の技術に基づいて、当業者がきわめて容易に考案することができたものと認められるから、実用新案法第三条第二項の規定により実用新案登録を受けることができない。

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